1978 年に日本内観学会が設立されてから40年以上にわたり科学的に研究され、エビデンスが積み上げられています。メンタルヘルスやうつ、ウェルビーイングなど様々な効果が実証されています。北陸内観研修所も統計的調査や事例検討を研究し、内観の効果を報告してきました。
内観後には不安定な感情に由来する対処行動が少なくなり、積極的に問題に対して取り組む問題解決型の対処行動が増加します。さらに健常者の情緒安定性を高め、また精神疾患のあるものにおいても精神病理の軽減に寄与します。
古市厚志他『集中内観によるストレス対処行動の変化』内観医学8:9-18(2006)
ビジネスパーソンを対象とした集中内観前後の比較研究では、ウェルビーイングが好ましい方向に変化することが示唆されました。ウェルビーイングを測るPERMA-Profilerの領域のうち、集中内観後に「ポジティブ感情」が上がり「ネガティブな感情」は減少しました。興味深いことに、「人生の意味付け」も高めます。
貫井慎也『集中内観によるwell-beingの変化』(2017)
ビジネスパーソンを対象とした集中内観前後の比較研究では、自己表現を上手くできない人でも、内観後にはアサーティブネス*になります。内観によって、「自分も他人も大切である」ことの気づきを促すのです。人が存在することを互いに認め合えるとき、コミュニケーションとしての自己表現様式もより成熟します。それは視点の転換により他者に対する理解が深まり、個人の共感的配慮が向上するからです。
*アサーティブネス(自他を尊重した自己表現もしくは自己主張)
・古市厚志他『集中内観による共感の変化』精神医学52(7):679-682(2010)
・古市厚志他『集中法によるアサーティブネスと自尊感情の変化』内観医学15:19-29(2013)
内観法が個人の「死生観」に与える影響について、心理学的指標を用いて検討した研究があります。内観前後の比較研究では、「死後の世界観」の変化、つまり、生と死の連続性の認識が強まり、また、死の孤独感が薄くなるため「死への恐怖・不安」が軽減するという結果が示されました。さらに、他者からの愛情を再認識することによって、限りある命だから、人生に目的をもち、日々を積極的に過ごそうという気持ちになると示唆されました。
こうした変化は、死と向き合うサイコオンコロジーやターミナルケアにおける患者の精神的ケア、強いてスピリチュアルケアに有益。内観法の終末期医療への応用可能性を支持しています。
古市厚志他『集中内観による死生観の変化の検討』臨床精神医学39(10):1335-1361(2010)
「内観の効果は何なの?」「どれくらいの人に効果があるの?」このような質問を受けたので、北陸内観研修所では内観の効果をアンケート調査から検討しました。110名による内観者の自己評価として、「素直」、「わだかまりが解ける」、「体調が良い」、「幸せ」との結果。内観によって、研修者の心の感情変化は氷が溶けるように「わたがまり」が解け、自分に素直になると推察されました。
北陸内観研修所では研究した結果、内観スタッフ等の援助によって、過去を想起ができるようになり「迷惑をかけながらも生かされている」という気持ちが芽生えるという結果が示されました。
1)長島美稚子他:集中内観の効果 Ver.1 ―アンケートを利用した評価方法-,日本内観学会大会発表論文集23;57-58,2000
2)長島美稚子他:集中内観の効果(第1報)-他者(面接者)評価について-, 内観研究8;35-41,2002a
3)長島美稚子他:集中内観の効果(第2報)―自己評価について-, 内観研究8;43-50,2002b
4)長島美稚子他:集中内観における中断者の特徴、内観医学6;15-24、2004
5)長島美稚子他:中断者を減少させるための一工夫、内観研究12;73-79、2006
6)長島美稚子他:集中内観における困難群の特徴-アンケート調査対象者における検討-,内観研究,14;73-79,2008
情動面をポジティブにする変化は、集中内観の特徴 です。内観の特性としてもあげられる「母親との関係性を土 台」とする愛着に着目し、 愛着スタイルによる内 観尺度の効果を検討しました。まず、内観尺度の因子分析によって抽出された幸福感と自己認知と陰性感情の3因子について、内観前後の違いを調べたところ、内観による幸福感と自己認知の高まりと陰性感情の低減が認められ、内観の効果が示唆されました。
次に、成人愛着スタイル尺度を用いて対象者を安定群、両価群、回避群の3つの愛着群に分類し、愛着群別に内観尺度を調べたところ,安定群と両価群は、内観によって幸福感と自己認知が増加し、陰性感情は減少するという有意な効果が認められた。両価群は、面接者の信頼関係と適度な自我より、内観によって、ネガティブ思考からポジィティブ思考に大きく変化することが推考されました。
・長島美稚子他:集中内観体験前・後の愛着スタイル別に見た内観の効果、内観研究16(1)、89-99、2010
・長島美稚子他:内観による情動制御の一考察 愛着理論を利用して、日本内観学会抄録集35;42-43、2012
東日本大震災では、二万人以上の死者や行方不明者がありました。これまで漠然として生きてきた人は人間の生死を垣間見て、生と死の深い意味を考えさせられ「本当に今の生き方で良いのか」と鋭く問われた、といいます。
本事例では、震災地に住み、津波の脅威の中で「生きたい」自分を発見し、震災から二ヶ月たって 集中内観をして、命の根元である母親と心の中で和解した30 才主婦をとりあげました。彼女は、内観によって「絆」を再認識し、子どもが欲しいと思えるようになりました。
内観は、人が抗えない脅威を機縁として、母から子へ連綿と繋がれた負の遺産を修復し、新しい命を持ちたい、という希望を持たせました。
長島美稚子:「個」の復興としての内観-津波に直面して-、内観医学16;27-36、2014
10 代、特に問題行動の改善を目的とする子どもの内観研修の受け入れる時には、親子内観を勧めます。子どもは中断率が高いからです。
北陸内観研修所では、研究と臨床を積み重ね、中断を申し出た時を危機的状態ととらえるのと同時に「好機」と考え、母子で話し合いを積極的にしてもらいます。自己肯定感が低い彼らに忍耐力を育むことは大切なことです。辛い時は親に手助けをしてもらい、最後まで成し遂げられることを実感してもらいます。
内観を完遂した彼らは、自尊心が芽生え、意欲が増します。非行少年や不登校児は、人に否定され続け居場所がないために問題を繰り返す傾向にあります。しかし、結局は見守る人との繋りによって更生への道を歩むのです。集中内観は、彼らに周囲の人々との関係性の大切さを認知させる場となるでしょう。
・長島美稚子:少年犯罪・非行の精神療法、精神療法34(3)298-305、2008
・長島美稚子:不登校、(三木善彦・前栄城輝明・竹元隆洋編)内観療法.ミネルヴァ書房 126-136、2007
内観療法は、症状にターゲットを当てた治療ではなく捉え方の変化を目的とする治療法です。
患者さんの成育歴の中で、親との関わりの問題が絡んでいるとしたら内観の効果が期待できます。内観を通して愛されていたことを確認すると親とのわだかまりが解け、現在の対人関係で固執していたことも和らいできます。愛されることを自覚することで、症状を回復させる可能性もあるのです。
「親から愛を与えてもらえなかった」という思いを子どもの頃から抱いていた主婦は、親も被災のために苦しみ、その心の傷のために愛を伝える余裕がなかった」と理解を深めました。その過程には、親に対する憎しみという出来事にも向き合い、和解していきます。
内観療法を通して自己中心的な自分に気付き、夫の愛情も受容できるようになると、これからはお「返し」の人生を歩みたいという生きがいを持ちました。
身体への影響は、主婦は次のように捉えました。「親や夫を恨んで生きてきた。感謝が足りなったから、その恨みが身体症状となった」。「ストレスがある度に身体に及ぼした」と思いいたりました。
主婦は、母親の笑顔を思い出すと、心が温かくなると実感しました。「母親の笑顔が蘇えったからか、昨夜、大量の汗をかいた後に、足の痛みが柔らいだ」と述べました。
長島美稚子他『内観療法の立場からの見立てと治療方針』精神科治療学32(7)、931-935、217