「すべてをゆだねて優しさに包まれた一週間」 後半
前回は、集中内観を自社の社員研修に取り入れられている中日本興業株式会社で働き、一児の母親でもある女性社員Sさんの内観体験インタビュー前半でした。たくさんの貴重な体験談をお話いただきましたので、今回は内観体験インタビュー後半をご紹介いたします。
【中日本興業女性社員Sさんの内観体験インタビュー後半】
質問者:インタビュアーT(以下、Tと表示)
回答者:中日本興行社員Sさん(以下、Sと表示)
内観に行った人の劇的な変化はわからないですが、少なからず自分の心を良くしたいとか、自分を高める努力をされているので、そういうところを見習いたい
T: 同じ会社の上司や同僚、部下の方や、周りで内観された方で、内観の前と後で、変化や何か感じたことはありますか?
S: 当社では、2015年から集中内観が社員研修として導入されたので、今頃(2022年)の時期に内観に行く人は、すでに2回目、3回目という人が多いです。初めて行くという人は、入社して間もない方が多く、数回内観に行っている人は、学びたい気持ちがあり繰り返し参加しています。正直な意見としては、少し話しただけでは、劇的な変化は感じません。
でも、やっぱり内観に行った人は、内観の話を結構するんですよね。私も聴きたいし、聴いてほしいし、相手も話したいしという関係があって。そういう意味では日常内観じゃないですけど、やったことを忘れない環境にいるのかなって思います。お話したように、私自身もすぐには変われないし、他の人も変わったなって感じている人は、たぶんいないんじゃないかなと思うんです。でも、内観に行くということは、少なからず何かを変えたいとか、知りたいとか、今より良くしたい等、考えていると思うんですよね。自分を高める努力をしてるのがわかるので、そういった部分を見習わないといけないなと思います。
T: 逆に何か変わったねと言われたことはありますか?
S:なんで忘れていたのか不思議ですが、家族にしてもらった多くのことを内観で思い出しました。
内観から帰ってすぐは何度も思い出すことで、何をしてもらっても「ありがたい」っていう目で見て、常に感謝してそのことを伝えました。
内観後2週間~1ケ月くらいは家族も「穏やかになったね」「良い経験したね」みたいな、感謝の気持ちがにじみ出てるよって言われてたんですけど…。半年くらい経って、些細な苛立ち等があったりとすっかり日常に戻ってしまい、今は特に言われることはないです。修業が足らず…。(笑)
T: 集中内観の中で、食事中に聴く(他の人の内観体験談などの)音源の中で心に残っているものはありますか?
S: あります。元ヤクザの親分(橋口勇信さん)が更生した後、別のヤクザの方が、家に押し掛けてきた時の内容が印象的でした。橋口さんはどうするんだろうって思っていたら、追い返すでもなくその方を受け入れて、「一緒に内観しようよ。」って誘って…。まさか内観に誘うだなんて思わなかったので驚きました。自分がやってきたこと(内観)を隠すわけでもなく、ケンカするでも、嫌がるでもなく、そのまま相手を受け入れるって、自分に芯がないとできない行動だなって思いました。
音源とか、本とかもそうですけど、成功例は載ってても、その後のトラブル時の対処法ってあまりなかったりするから勉強になりました。
また刑務所での橋口さんの講演会で、ある受刑者が質問をしました。ヤクザの紛争の中で受刑者の弟のお嫁さんが売られてしまった事件に触れ、受刑者の怒りがおさまらず、自分は刑務所を出たらその女性を売った人に仕返しをしたいんだという話があった時に、橋口さんがそこで仕返しをしたら結局繰り返しになる、負の連鎖は断ち切らないと絶対だめだと言いました。売られてしまった女性を不憫に思うなら、仕返しをするよりも、その女性を支えてあげ、もし今困った状況にいるなら独り立ちできるように助けてあげなさい。そういう支え方をしなければいけないみたいな話があって…。
普通は受刑者と同じ気持ちって湧き上がると思うんですけど、そうではなくて違う方に目を向けるっていうのは本当に素晴らしいなって思いました。
音源については、暗い気持ちになるから音源を聞くのが嫌だという同僚もいます。
でも私は逆にあの時間が結構好きだったので、自分には合っていたのかなって感じました。
(同僚と)日常的に自然と内観の話になるんです。
T: 会社の人同士で内観のことについて話すと言われていましたが、何かそういうお話会みたいものが開催されているのですか?
S: そういった場は特になくて、日常的に話題にのぼるイメージです。例えば飲みに行った時とか自然と出るんですよね。同じ経験をした同志みたいな感じで。楽しいですよ。
T: 日常、見方がちょっと変わったかなと先ほど話されていましたが、仕事の中でも、たとえば何かうまくいかない時とかに、見方とか考え方がちょっと変わったかなということはありますか?
S: 私はデザイナーですが、デザインは営業と施工がいて成り立っています。割とデザインと施工はものづくりをするっていう意味で似てるので理解し合えるんですが、営業はお客様との間に立って調整するので思いが違う場面が多々あります。内観に行って、デザイン重視だった自分が営業・デザイン・施工全部で一つと俯瞰して見れるようになりました。自分の意見を押し通すことが多かった事に気付きました。
営業には営業の立場があって、それを支えるのが制作側の人間だったりするので、応えれば次の営業がしやすいだろうとか、その先を考えられるようになったのも変化の1つかなと思います。
全然関係ないんですけど、内観が終わって帰る時に富山駅のスタバでお会計が¥777だったのを見て店員さんが「わぁ~すごいラッキーですね!良いことありますよ」って喜んでくれて。
私すごいツイてるな、全てのいらないものが落ちたなって、気持ちよく帰ってきました。(笑)
T:1週間子育てからも離れて自分のことを見つめる時間というのは、お母さんという立場上できる人は少ないと思うんですが、すごい経験でしたね。
S: なかなか母親って家庭のこと育児や仕事を切り離せないと思いますが、今回1週間一人きりの時間をいただいて、こういった時間を持つことはすごく大事だと実感しました。
普段の生活に戻ったら、日常に追われてイライラしたり、忙しくてゆっくり考える時間が持てないのは当然の事と思います。
だからこそ1週間離れて自分だけに時間を使うのはとても贅沢で、他のお母さんたちも経験できるんだったらお勧めしたいなって思います。
解放される、そういう時間って必要ですね。その方がきっとみんなに優しくできるって思いました。
T: お子さんが小学生になって忙しくなられたと思いますが、また機会があったら(集中内観研修に)行ってみたいと思われますか?
S: そうですね、子どもが6年生になったら中学校に入る前に絶対もう1度内観をやりたい、やるって勝手に決めました。子供が思春期に入る時にまた時間をもらって見つめ直したいと思います。
心が濁った時に、内観を思い出して、自分を調べる時間を持つように心掛けています。
T: 普段お忙しいと思うんですが、日常で何か嫌なことがあった時に、お家でちょっと振り返ったり日常内観的なことはされたりしていますか?
S: 弊社(中日本工業株式会社)自体が、社長が『人間力を高める』という事に大変力を注いでおり、『木鶏会(もっけいかい)』は何年も継続して行っていますし、『人間塾』も社長が主催してくださり、私も参加し「怒りのコントロール」とテーマを決めて1年間取り組みました。何に対して自分が怒りを感じるのか、怒りを感じた時、その怒りをどうやって静めるのか、逆に静めない方がいいのか等、感情について学ぶ機会があって、立ち止まれる時間もあり、既に自分の中にベースはあったんですよね。
割と心を鍛えるには良い環境に身を置いていると思います。
ふとした時に振り返ったり、見つめ直す時間はありました。でもそれと内観のやり方はちょっと違うなと感じていて、両方合わさったことで、また違う自分の見つめ方ができるようになったと実感しています。
私は割とネガティブ思考なんで引きずるタイプなのですが、そういう時にこそ内観を思い出して、自分の事を調べてみたりだとか、一歩引いて見つめてみる、そういう時間を持つように心掛けています。
T:みなさんお忙しいと思うんですが、日ごろ自分を振り返るのはどういう時にされますか?
S:夫が子どもと一緒に寝て一人になった時が割と多いですね。完全に一人になる時間に振り返っています。
T: 長い時間、インタビューにご協力いただきまして、ありがとうございました。
【女性社員Sさんのインタビュー、後半を終えて】
一般的には、集中内観に行った後の、日々の日常内観がとても大切だけれども、継続が非常に難しいと言われています。通常、個人的に集中内観に行くと、その後は、内観仲間の集まりに参加したりしない限り、内観が途切れてしまったり、忘れてしまったりして、感動も感謝も日を追うごとに薄れてしまいます。
しかし、同社では『木鶏会(もっけいかい)』や『人間塾』という、人間をつくる勉強会に取り組まれたり、社員の方が順番に集中内観研修に行かれるので、常に新鮮な内観体験談を聴けたりする環境というのは、仲間同士で高め合える、企業研修としてのメリットでもあると感じました。
また、集中内観に興味があっても、個人では踏み切れなくても、企業研修の機会をいただけることで、思い切って行ってみて、日ごろの雑務からも一切解放されて、集中して自分と向き合える時間というのは人生の中で、なかなかない貴重な体験だと思います。
集中内観に行って、劇的な変化は感じられなくとも、日常の中で「見方が少し変わった。」「内観を思い出して、自分の事を調べてみる。」その小さな積み重ねの大切さを感じさせていただきました。
内観は、何か心が動いた時に、相手を見るのではなく、自分を振り返るという視点を教えていただいているように思います。
Sさん、貴重な体験談をありがとうございました。