北陸内観研修所

内観を知る

三つ子の魂 百まで

今回のブログの前半では、農家で働きながら集中内観を6回経験された方が、内観について書いてくれました。

ブログの後半では、今まで北陸内観研修所で集中内観を経験された方の体験談を2つご紹介いたします。

 

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現在、私はお花を育てる仕事をしています。

一粒の小さな種から、根を伸ばし、芽が出て、徐々に成長していく姿は、毎年同じ繰り返しなのですが、毎回感動します。

何度か集中内観を経験し、お花が育つプロセスの中に、人の成長の姿と重なる部分を感じます。

お花や野菜も、はじめは苗を育てます。

昔から農家では「苗半作」ということわざがあります。

「苗の出来によって、※作柄の半分が決まる」という意味です。最近では、「苗八作」とも言われるくらい、小さい苗の時点で、その後の8割が決定すると言われるほどです。

※作柄・・・農作物の生育または収穫高の程度。

人間の場合でも「三つ子の魂百まで」と言われるように、幼いころに形成された性格は、年をとっても変わらないと言われるくらい、その人のその後の人生に大きく関わってくると考えられています。

 

植物の場合は、小さな苗の時点で、太陽の光があまり当たらない環境で育つと、弱々しい苗になり、その後、どれだけ太陽の光を当てても、力強くなることはありません。

弱々しい苗は結果であり、そこには必ず何らかの原因があります。 その原因を探り、そこを修正しない限り、毎回、弱々しい苗が育ってしまいます。 植物は一度育ってしまうとそこからの修正はなかなか厳しいものです。

 

しかし私たち人間は、大人になってからでも、過去を振り返り、反省したり、過去の事実を捉え直したり、新たな気づきを得たりして、自分の癖や性格を自分で修正できるチャンスがあり、 内観はそんなきっかけを与えてくれる方法だと思います。

幼いころは、自己を中心としてものごとを見たり聞いたりすることがほとんどです。両親や兄弟、友達など、相手の立場に立って物事を考えることはほとんどありません。

しかし、大人になり親になってから親の気持ちがわかったというように、いろいろな経験を積んだ今、過去を振り返ると違った視点で物事を捉えたり、自分を客観的に見つめることができます。

 

では、その内観法とは、いったいどういうものなのか、具体的に見ていきたいと思います。

 

内観法の歴史

内観法の前身は、仏教の一派である浄土真宗の一部に伝わる 「身調べ」 と呼ばれる求道法です。身調べは断食、断水、断眠で「今、死んだら、自分の魂はどこへ行くのか」と真剣に死と対峙して反省する方法でありました。

 

内観の起源は、内観創始者の吉本伊信氏が20歳の頃身調べに出会い、一年余りの命がけの苦行の末に、21歳で※豁然(かつぜん)と到達された宗教的な安心立命の境地にあります。

※豁然・・・視野が大きく開けるさま。心の迷いや疑いが消えるさま。

その後、その感激を一人でも多くの人々に伝えたいと真剣に切望され、伝統的な「身調べ」から宗教色を取り払い、「自分を知る」ための自己探求法として内観法が確立されていきました。

 

 

内観法の種類

内観の方法は、以下の集中内観と日常内観があります。

 

北陸内観研修所での集中内観の入所から内観開始まで

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集中内観

〇楽な姿勢で座る

部屋の隅に二枚屏風を立てて、その中で安座する。 あぐらでも立てひざでもかまわない。足腰の悪い人は椅子に座ったままでもできるし、病気の人はベッドに寝ながらでもできる。

〇期間は7泊8日間

吉本師は「最終日が内観の深まる一番大事な時期」と言われていたので、ぜひ最終日の深まりを味わってください。

現在は6泊7日間の内観研修所も多いが、北陸内観研修所では、7泊8日の内観の原型に沿っている。

 

〇一日の流れ

朝5時起床、夜9時就寝。 朝30分間掃除をし、 一日15時間半内観をする。

 

内観のやり方、面接の様子

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〇内観のやり方

無理のない限り、原則として母に対する自分を小学校低学年から調べる。吉本師は「小学校へ入学する前は他者から聞いた話が多くなる。そういう記憶の曖昧な年代に時間をかけるよりも、小学校へ入ってからの意識のはっきりした 年代を調べるだけで、内観する材料は沢山ある」と明言した。しかし、二回目以降になれば、「物心ついてから、小学校へ入るまでのことも調べてみて下さい」 と言っていた。

 

〈してもらったこと〉 〈して返したこと〉 〈迷惑かけたこと〉の三項目について、具体的な事実を過去から現在まで年代順に3~5年ごとに区切って調べていく。

 

思い出すのが難しい人の場合は、例外的に現在から過去にさかのぼって調べる場合もあるが、順調に内観できるようになれば又、過去から現在へと本来のやり方に戻す。

 

内観三項目を調べる時の時間配分は〈してもらったこと〉に20%、 〈して返したこと〉に 20%、 〈迷惑かけたこと〉に60%。

 

母が終われば、次は父、配偶者、祖父母、同胞、子、嫁、姑、恩師、友人、上司、部下、取引先などこれまでの人生において自分と関わりの深かった人について、関わりの深い順に一人ずつ調べる。 嘘と盗みのテーマも調べる。内観に来た人の目的によっては、養育費の計算や酒、ギャンブル等に使ったお金の計算もする。

 

内観中は原則としてメモはとらない。 吉本師は「畳にしがみついて号泣慟哭している人がチョット、メモしておかなければ忘れるというのはおかしい。メモを書いている時間、文章を考えている時間あれば、一分一秒を惜しんで内観してほしい」と語っていた。

 

〇面接について

面接は1時間~2時間に1回(1日に8回~10回)。

1回の面接時間は2~3分間、長くても5 分間以内にまとめて話す。 理由は、内観は話すことによって深まるのではなくて、自分を見つめている時間が大切だからである。

面接時は、内観中に想起したことを日記帳でも読むように全部話す必要はない。その中から〈してもらったこと〉 を一つ、〈して返したこと (して差し上げたこと) 〉 を一つ、〈迷惑かけたこと〉 を一つ話せば十分である。 だからといって、一つ思い出したから、これで面接の時に話せると油断していては内観が深まらない。

 

ちょうど習字の練習をする時、 何十枚練習しても、添削を受けるのに提出するのは一枚か二枚である。 それと同じ要領でやる。一枚しか練習しなければ上達は望めない。

 

〇食事と音源について

朝、昼、夕の食事時に60分~90分の内観の音源を聞く。

 

日常内観

集中内観後、帰宅してから毎日1~2時間内観を続けることを日常内観という。集中内観は、日常内観をするための基礎訓練である。吉本師は「日常内観こそが本番であり、日常内観のできる人こそ本当の内観者である」と集中内観後の座談会で述べている。

集中内観を電柱にたとえ、日常内観を電線にたとえた。電柱ばかり何本立てても、間に電線が張ってなければ役に立たないし、また電柱と電柱の間の距離が開きすぎると電線がたるんでしまう。 それで年に1回~2回集中内観という電柱を立てながらその間を日常内観という電線で結ぶように勧めた。

 

内観法の役割とは?

時代は、コロナ禍によって、IT化が発展し、仮想空間も進化しました。 その中で、人間は人と人の繋がりであるコミュニケーションスキルが困難になったと言われています。

 

SNSが一般化したこの社会に、内観法の役割は何でしょうか? 北陸内観研修所では、アンケート調査を実施し、内観研修生の効果を研究しました。

 

「人とのわだかまりが解けると自分に素直になる。 それが幸せと感じる」 「わだかまり」とは、心の奥に巣くったネガティブ感情。 内観研修の過程で、陰性感情を自覚し、他者の愛によってわだかまりが解けたとき、内観研修生は「素直」になれたと告白します。

 

幸せは、人との関係性の中で感じるものでもあります。 長年にわたり巣くってしまったネガティブ感情がからまり、何から手を付けていいのか分からない悩み多き人たち。 内観によって、一本一本紐解き、 絡まった糸が引き出され、整理される中で、それまでの記憶が 「思い込みや勘違い」だったと気づいてきます。

 

内観法では生かされている実感で、幸せを感じます。 自身の基である両親、 そして祖父母など縦の繋がり。 パートナーやビジネスパーソンなど横の繋がり。 この二つの要素を、幼い時 から順に紐解くには、まとまった時間、 瞑想に集中する時間が必要で、それが集中内観です。

 

内観体験談

ここで、2つの内観体験談をご紹介します。

現在、心理療法は数が数えきれないほどあります。 その中で、内観は根治療法に位置します。 そして、ある放送で、 内観は 「人が変わる」 といっていました。その過程を克明に述べた内観感想文です。

 

誰といても、むなしくて、寂しくて仕方がない

昨年、11月頃、僕(20代)は非常に精神的にきつい時期でした。 何をしても、誰といても、むなしくて、寂しくて仕方がないのです。どうしようもなく孤独感を感じてしましい、生きていても仕方がないとすら感じていました。 何度か 友人に話を聞いており、内観に一度いってみたいなと思いました。

 

一日15時間、8日間、ぶっつづけでやりました。 食事は出ます。 お風呂も入ります。 夜は寝ます。 でもそれ以外はずっと、ひたすら、してもらったことを思い出すわけです。 最初はなかなか見つかりません。 してもらったことなどあったけ? してもらうべきことをしてもらっていないことならあるのになとか、絶対に感謝なんかしてたまるかとか、そういう態度なわけです。

しかし次第に、その抵抗にも疲れてきて、ふと見えだすんです。 お母さんは体が弱かったな。朝起きるのも大変だったろうに・・・。毎朝、起きて朝ごはんを用意して、僕を起こして、ご飯を食べさせてくれ、送り出した後は、お皿を洗って、洗濯と掃除をしてくれ、買い物に行き、夕食の準備をし、お風呂を温めておいてくれた。はじめはそんなことはあたりまえだと思っていました。しかし、これが一年のうちに、365回。10年のうちに3650回。そのうちに、2回や 3回、十分でなかったときもありましたが、残りの3647回は毎日、何も言わず見返りを求めることもなく、ただひたすらにお母さんは僕につくしてくれた・・・。 ということが見え始めました。このときの衝撃をどんな風に言ったらよろしいでしょうか。何度かやるうちに、ふと、もっとびっくりすることを思い出しました。

母親は、僕を産んでくれたのです。もともと体の弱い人でした。その人が自分の命を削って生んでくれたこと。

それに気付いた時、声をあげて泣きました。号泣というものを生まれて初めてしました。これらのことを、私は今まで本当にあたりまえのことだと思っており、してくれなかったことについて不満をもって生きてきたと気付きました。それからずいぶんと世の中が変わって見えるようになりました。

 

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次にご紹介する体験談は、 本人のお姉さんが10年間にわたり、母親と弟さんの集中内観とその後の様子を手紙で報告してくださったものです。 母子内観は圧巻でした。 そして、親子の絆を取り戻す術を教えてくれた、忘れることができない事例です。

 

精神疾患をもつ家族の療法として。 患者本人との関わり方の指針を得て、仕事、そして家族関係が良好になった事例

心の病を持った息子を持つ母親 (65才) は、 夫を早くに亡くし生活に追われて今に至りました。 長年、心の病で苦しんできた息子は病状が悪化し母親との関係が悪くなり、母親は自殺までほのめかすようになってしまいました。

 

意識を変えるためまず母親が内観研修に来ました。 息子に対して 「『薬を飲むと非常に辛い』と、以前ケースワーカーの人から教えてもらったのに、息子を思いやることをしていませんでした。他家と比べ、息子を仕事に追い込み、自分の思いどおりにしようとした自分こそ悪かったのです」と、考えることができるようになります。 息子に対して自然とおどおどした態度がなくなり、彼女自身は心が楽になりました。しかし帰宅後も息子は仕事もせず寝たり起きたりの生活。母親には冷たくあたります。辛抱し、親子関係が良くなることを願い、日々を送っているうちに、やっと息子も内観にいくことを同意しました。

 

わだかまりを解かし、親子関係が良くなる

息子は自分自身の中にある、母親に対するこだわりを認め、解消したいと思っていました。しかしながら心とは裏腹に、実際は冷たくしてしまう自分が情けなくてなりません。息子の内観は、一週間を何とか辛抱したという内容のものでした。ほとんど記憶が蘇りませんでした。

 

座談会において母親は息子に対する気持ちを本人の目の前で述べました。すると内観にならなかった息子も、母親の面とむかった自分に対する懺悔に心をゆり動かされたようです。

 

翌日、息子は母親を呼び出し、二時間かけて今まで心にたまっていた母親への思いを、ささいなことまで持ち出して吐き出しました。 その後「今日は少し心穏やかになった」と言い、話し終えました。母親は「心のわだかまりを吐き出せば楽になるのならと思い、何も弁解せずに聞いていました。私は、心の中で謝っておりました」と述懐しています。

 

こだわりを吐き出し、心が楽になったためか、二人の関係は日増しによくなり母親が作った食事も共に食べることができるようになります。息子は自分からすすんで主治医に受診しました。家業の農業に従事できるようになります。数年後、母親は病気で半身付随になりました。息子は母親を車イスに乗せて散歩に連れだす毎日を送っています。

 

参考文献

  • 吉本伊信;内観法 春秋社 東京 2007
  • 長島正博;内観法の立場から 北陸内観研修所 富山 2004
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