内観によってグリーフワーク
内観によって、グリーフワークされた方の体験談
企業研修で内観された40代男性(Aさん)です。来所の一ヶ月内に、父親を亡くされ、その一週間後に突然奥様を亡くされました。もちろん会社側は、内観研修の延期を本人に促したそうです。
しかし本人は、あまりにも辛く仕事など日常生活に支障がでそうなので参加を決断しました。入所当時は、うつ状態でした。誤解されてはいけないので明記致しますが、この期間の遺族の睡眠障害や落ち込みは一般的です。ただ内観面接者の私も、Aさんが過去を思い出すには早すぎるのではないかと危惧しました。
内観は、過去を思い出し、ネガティブなイメージの過去のエピソードがあれば、内観している本人が今現在において、その過去のエピソード一つ一つを捉え直し、ポジィティブに受け止めるという作業を繰り返します。受け止められるところから、少しずつです。
過去は事実として変わることはありませんが「亡くなった人から恩恵をいただいていた。その死には意味があり、自分は亡くなった人の分まで生きぬこう」という”イメージ””気持ち”にさせてくれます。
集中内観研修
さて、Aさんの入所当時は「父親や妻という言葉があると辛い」と言いながらも、まずは母親やかかわりのある人の記憶を順に辿っていきました。母親から「世話」になったことを想起することは、愛情を抱くことです。母親の愛情を感じ、どんなことがあっても最終的に母親が絶対守ってくれると確信すると、こころの根底に人への信頼感が根付き、なん人に対しても恐れが和らぐのです。
一週間の後半になると、凍っていたこころが溶け始め父親に対して内観しました。最後に、妻に対しての自分を一年ずつ、内観できました。
内観後の感想です。
「父と妻を亡くし、生きる気力を失っていました。内観は、最初は形式的な答えしか出て来ませんでしたが、いろいろな方への〈世話になったこと〉〈して返したこと〉〈迷惑をかけたこと〉を繰り返して調べていくうちに、今まで自分は人にしてもらったことが大半をしめ、して差し上げたことがほとんどないことに気づかされました。
母親から調べていくうちに、改めて、人の愛、感謝の気持ちでいっぱいになり、涙が出て来ました。お世話になった方々へのご迷惑は計り知れない程の大きさでした。私は、今回、母親、父親、さいごに妻について内観させていただきました。明日からは、私が恩返しすると誓います。
父親と妻は亡くなりましたので、お世話・ご迷惑をおかけした分は、今後は母親と親族に恩返しをさせていただきます。妻は、結婚生活で一生分の幸せを私にプレゼントしてくれました。今度は、妻に恩返しをする番です。妻の分まで生きて、お世話になった方へ奉仕いたします」
帰り際、Aさんは力強く内観面接者の手を握りしめてくださいました。