北陸内観研修所

家族関係を円満に

突然の娘の不登校、引きこもり、家庭内暴力、家出…。内観を通して、ご両親が自分自身を見つめ、夫婦・親子で向き合い、家族みんなで取り戻した絆。

現代は、物質・経済優先のスピード社会。日々膨大な情報が行き交い、IT化、核家族、共働き、少子化、コロナなどで、コミュニケーション不足、対話不足などが問題視され、様々な集団生活や行動に馴染めず、孤独感や生きづらさを感じる人も多くいます。

大人だけでなく、子供達も様々な悩みを抱え、心身のバランスを崩し、非行や不登校、引きこもり、家出などさまざまな問題を抱えています。

 

今回のブログは、反響が大きかった過去の北陸内観便りを再編集しました。不登校のお子様を持つご両親が長期にわたり内観でご自身を見つめられ、ご家族みんなで課題に向き合われた記録が書かれています。

我が子が急に不登校になったら、どのように対応すればよいのか、悩みを抱えておられる親御さんもおられると思います。

我が子との絆を取り戻すため、内観を通してご自身を見つめることから始められたご両親の謙虚なお気持ちと、あきらめず継続される姿に、娘さんに対する心からの愛情を感じました。また同時に勇気や希望をいただきました。

 

 

北陸内観便り 第85号
明けまして、おめでとうございます。

ミレニアム最初の便りは、10年間不登校の娘を見守りつつけた父親と母親の手記、そして本人の手紙です。

 

 

【父親の手記】

 私達の娘が不登校になったのは、中学3年修学旅行が終わり、高校受験の頃。そろそろ本格的にエンジンをかけなければならない時期でした。
我が子がまさか世間でチラホラ話題になりかけていた、あの不登校になるなんて全く晴天の霹靂でした。しかし、それは突然出現し、ちょっとしたきっかけで直る程の軽いものではなく根は深いものでした。母乳で育て充分可愛がった筈なのに、指しゃぶりやおねしょが小学校まで治らない。

私達は、娘に早くからいろいろな習い事をさせ、塾がダメなら家庭教師をつけました。いい学歴をつけさせる為に追い込んでいった結果が不登校だったのです。その為に娘は、落ち着きが無く、忍耐力、達成感、感謝、感性を無くした人間になってしまいました。

 

親として、自分達の「心の大黒柱」が無いせいで、さまざまな情報を集めて病院や教会へ行き、地方紙で北陸内観懇話会 『さわやか会』の案内をみつけ夫婦で出席しました。そこでまず親が内観に行くべきだと言われ、妻、次いで私も盆休みに集中内観を受けさせてもらいました。

 

次に2学期になる直前に、説得して娘と妻とで内観に行かせましたが、
一晩で娘だけ帰宅。新学期から登校してほしい期待が泡と消えました。このままでは、卒業式にも出席できないだろうと腹をくくりました。すると娘に対して青写真を描くことを止め、期待しないで、今、娘自身に出来る事をさせるしかない、というふうに私達の意識が少しずつ変わっていきました。
夫婦それぞれが自分の問題を持ち、それが絡み合ってこじれた状態が娘の不登校。それで私達夫婦は、毎朝、短時間ですが日常内観をし、互いに面接することを実行しておりました。
何かをせずにはおれなかったし、内観には安らぎが有り継続するしか術が無かったのです。

 

10月末に娘は急に登校すると言い出し驚きました。が、登校しても一週間位で又、行けなくなると聞いていたので、それよりもと私は考え、娘に内観を勧め、妻と二人で参りました。綱渡りでしたが、無事に終え夢のようでした。
その後、一度諦めていたのに登校すると又、私の欲が出てしまい、枠を作って娘を追い込む。不登校になりそうな危機が何度もありました。私も一度目の内観が尻切れトンボのように思え、年末に二度目の内観に出かけました。

 

1月に入って娘は少し落ち着き、高校合格出来ないかもしれないという不安から、始めて真剣に勉強をし出しました。 お陰様で合格通知をいただき、3月には無事卒業出来ました。
娘は高校生活が新鮮な間はやる気を出していましたが、いかんせん持続性がありません。次第に帰宅時間が遅くなり、夜間外出、無断外泊となりました。私達はそれに翻弄されました。仕方なく信頼できる知人に預かってもらいました。しかしそれも、結局1ヶ月で強引に連れ帰らざるをえなくなります。
この間、私達は内観を継続しているのに悲しいかな何の対策も浮かんでこないのです。しかし、その内に少しずつ冷静な対応が出来るようになってゆきました。
好むと好まざるをえず強制的に子離れさせられた親。我が子であっても、その人格を尊重し、絶対入ってはならない領域を侵さない親にならない限り、娘は戻って来ないということを肌で感じました。
このような試行錯誤の中で、私達は強い絆で結ばれた本当の親子になりました。今度の旅立ちこそ、安心して娘を送り出せることと喜びを感じております。

 

 

【母親の手記】

“カナカナ…” このセミの鳴き声を聞くと、今でも集中内観のあの暑い夏の日が鮮やかに甦ります。

娘が不登校になり、目の前が真っ暗になりました。この子が学校へ行くのなら、どんな事でもすると私が思いつめていた時、内観にご縁をいただきました。娘よりも母親の私に必要なことだと言われても、何の抵抗もありませんでした。
長島先生に、「直すのはかかった年月だけかかりますよ」と言われ、「早くこの問題をなんとかしたい…、そんなに長いこと待てない…」、と思っていました。
娘も内観を体験して復学し、高校へ入学したもののすぐに行けなくなります。

初めは海底に沈んでいる貝のように部屋の中に閉じ籠もっていました。次に昼夜逆転、深夜徘徊とお決まりのコースを辿っていきます。

私は自分の思い通りにならない娘に腹が立ち、嫌悪感でいっぱいでした。
恐ろしい目つきでキッと睨みつける娘。
無気力で刹那的。可愛かったあの子がどうしてこんなになったのだろうと、
何度思ったことか。
当時を振り返ると、それまでに娘がいろいろなサインを出していたのに、私は愚かにも彼女への接し方を改めませんでした。自分が最も愛されたい存在である母親に、嫌悪の眼差しを向けるということが、どんなに悲しいことかということが分かったのは、ずっと後のこと・・・。
淋しかったでしょう、苦しかったでしょう。そんな我が家には居場所が無かったのです。わずか16才で家を出てしまった娘。

 

もう私の手の届かない所へ行ってしまった。悲しくて切なくて、胸が張り裂けそうでした。なぜ、どうしてと自分に問い続けました。
時には投げ出したいこともありましたが、主人と2人3脚で日常内観を細々と続け、気がついたら10年。そして”家を出ていくのは魅力の無い家だからだ。では帰りたい家にすればいいだけなんだ。” こんな簡単な結論を出すのに、必要な年月だったのです。

最近、待ちわびた娘がやっと帰宅しました。医療関係の資格をとり、親子3人で2泊3日のルーツを訪ねるという夢のような旅(丹波)も実現しました。

娘のおかげで私は、育てられました。

苦しい時は謙虚にいろいろな情報に耳を傾けると、素晴らしいものが自分の中に飛び込んできます。

こうして振り返ってみると、私には生きる為の”筋(すじ)”がなかったのです。

私の筋をつけるために、娘が自分を犠牲にしてまで訴えてくれたのだとやっと分かってきました。 この筋が、私の運命をも好転させたのです。

親がきちんとした生き方が出来るまで、決して許さなかった娘。迂闊(うかつ)なことを恐くて言えなかった娘。 この子の厳しい基準に、ようやく合格点をつけてもらえたと主人と喜びを噛みしめております。
娘よ本当に有難う。

この原稿を書いている最中に、思いもかけず娘の手紙が届きました。
そのタイミングの良さに驚いております。
待ちに待った娘の就職始めの知らせ、記念に記載しておきます。

【娘の手紙】

「DEARお父さん、お母さん
寒い日が続きますが、お変わりありませんか?
黒のジャケット(注 誕生日プレゼント) 有り難うございました。 大切に着させて頂きます。
今日、やっと仕事が決まりました。 アルバイトだけど、経験を積まないことには、どこへ行っても採用してもらえませんので決めました。
この病院で朝から昼までと、夕方から夜までフルタイムで働いています。


ここまで来るのに2ヶ月間、いろいろな焦りや挫折の繰り返し。でも、いろんな事が見えてきて考えることも出来るようになった自分。
これがお父さんとお母さんが言っていた「砂利道」なのかなと思っています。
選んで通った訳ではないけど、結果的に専門学校に通ったことが良かった。スーと就職出来ていたら気がつかなかった事がたくさんあったでしょう。
きっとこの経験が、私をまた強くしてくれるのだと思います。
そういう経験が私にとって必要だから、神様がこの2ヶ月間をプレゼントしてくれたのだと思っています。
お正月は帰れなくて残念だけど、これからが本当のスタート!
頑張って早く仕事が出来るようになりたいです。
本当に有り難うございました。
では、また手紙を書きます」
合掌

 

 

【ご両親の手記と娘さんの手紙を読み終えて】

不登校や引きこもりなど、心の問題や病は、必ず原因となる根っこがどこかにあります。多くの場合、幼少期の親子の関係はとても深く関わっていると言われています。

不登校を子どもだけの責任にせず、ご両親が謙虚にご自身を見つめられる姿は、娘さんの固く閉ざしていた心に、少しずつ確実にあたたかい愛情として伝わっていたのですね。

 

 

【北陸内観だよりの逸話】

北陸内観だよりの前身は、当時の北陸内観研修所の前所長であった故 長島正博氏が、内観研修を終えて、日常内観のはがきを送ってくださる方々に、毎回、はがきで返信していた、「日常内観頑張ってください」の一言はがきに由来します。

その様子を見て、現在の長島美稚子所長が、このはがきのやりとりの過程を、北陸内観だよりに書いて、みなさんへ郵送してみようと思いつき、北陸内観だよりが発刊されました。

 

 

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