「すべてをゆだねて優しさに包まれた一週間」 前半
前回は、集中内観を自社の社員研修に取り入れられている中日本興業株式会社の服部徹社長の内観体験のインタビュー記事でした。
今回は、同社で働き、一児の母親でもある女性社員Sさんの内観体験インタビューです。たくさんの貴重な体験談をお話いただきましたので、前半・後半に分けてご紹介いたします。
【中日本興業女性社員Sさんの内観体験インタビュー前半】
質問者:インタビュアーT(以下、Tと表示)
回答者:中日本興業社員Sさん(以下、Sと表示)
「行くなら今行ったほうがいいよ」の言葉に後押しされて
T: 集中内観にはいつ頃、何回行きましたか?
S: 私は2022年3月6日~3月13日までの1週間、初めて集中内観に行かせていただきました。
T: 集中内観に行ったきっかけは何ですか?
S: 弊社は内観を推奨しているので、みなさんが体験しているのは知っていましたが、私には当時保育園に通う息子がおり、子どもが小さいうちは行けないなということで、気にはなっていたんですけどお断りしている状況でした。そんな中、他部署にいる小学1年生の子供をもつお母さんと会った時に、たまたま「子供が小学校に入学したら内観に行きたいんだよね。」という話をしたんですね。
去年の10月の時点でうちの子供は年長児だったのですが、その人に「子供が小学校に入ったら忙しくて絶対集中内観に行けないよ。だから行くなら今行った方がいいよ」と言われ、それなら半年後の4月に息子は入学してしまうので、今行かなきゃと思って、すぐに社長に行きたい旨を伝えたんです。
弊社は、他にも集中内観を希望している人がいるので、本来なら来年度のスケジュールに組み込まれるんです。だけど、私は入学までの3月までに行きたいとお願いして、組み込んでもらうことができました。なので後押ししてくれたのは、そのお母さんです。
着いたら、いきなり始まって驚きました
T: 研修所に到着し、内観研修がはじまるにあたって、何か感じたことはありますか?
S: 研修所には高速バスと電車で向かいました。3月だから大丈夫だろうと思っていたら、富山へ向かう高速道路の時点で吹雪いており、「行き着けるかな…」と心配していました。たまたまコロナの関係で、内観者は私一人だったんですね。一人だし、雪で静まり返っているし、内観研修所に着いて、軽く説明はあったんですけど、本当に何もわからない状態から「どうぞ」みたいな感じでいきなり始まって、内観の仕方が合っているのか間違っているのかさえも不明で大変戸惑いました。
はじめは、身体がしんどくて、眠くなるし、やり方もわからなくて
T: いざ7日間の集中内観がはじまって、前半の1日目~2日目くらいはどのようなことを感じましたか?
S: まず初日は畳に座るという事がとてもつらくて。精神的に慣れるまではしんどいという話は内観体験者の人から聞いていたのですが、身体がしんどいという話は一度も聞いていなかったので、そこにも驚いて、座布団に座ってみたり、正座してみたり、椅子もあったので座ったり、立ったり、横になってみたり…色々試したんですけど、やっぱり日頃床にずっと座っている経験もないですし、そこからして集中ができなかったです。
そのうちに段々眠たくなってきちゃって、眠くなるということも正直聞いたことがなかったから「私、このままで本当に大丈夫かな」と思って、寝に来たわけじゃない、こんなことしていたら本当に時間がもったいないと思って、ノートを出して思い返したことを書き留めようと思いました。本当はノートとか使わない方がいいと言われていたのですが、このままだと本当にダメだと思いノートに取り始めたら、ちょっとスッキリしだして…初日はそんな感じでぼんやり始まった感じです。
内観のやり方をつかむまでが長かったです
S: 2日目になって、その時もまだ内観のやり方がわからなくて、所長が面接に来てくれた時に、自分が調べたことをお伝えするんですけど「そういう事ではない。」みたいな話が何回かあって、もしかしたら所長が求めている答えはこういうことではないんだなと思って、心の学びをする場所だから、私はこれだけ反省してるんだとか、こういう部分を反省しているとか、そういうことを言えばいいのかなと勝手に解釈して、本心とは違う上辺のことを言ってましたね。
私が履き違えた内容を話していることに所長が気付き、「そういう事ではない。」とまた言われてしまいました。そこで考え方のヒントとかをもらって、なんとなくそのくらいからわかったような、わからないようなの繰り返しが続いていたというのが前半ですかね。
内観のやり方が合っているのか(たぶん間違っていて、だから指摘されていたと思うんですが)、そもそも間違ってる部分もよくわからないし、内観のやり方をつかむまでがすごく長かったです。何が正解なんだろうって。今思えばそういうこと考えていることがそもそも間違っていたと思うのですが、詳しくこの部分が違うんだと指導を受けるわけでもないので、前半はわからないの連続で難しかったです。
T: 具体的にはどなたに対して内観されましたか?
S: 前半は基本的には母親と父親でした。私の父親は中学の時に他界しているので、内観の調べる対象として母親がかなりの部分を占めていましたけど、それで進めていきました。
全く思い出せなかったのが、ぽろぽろと・・・
家族間の記憶がごっそり抜けていたということに気づいて
T: 続いて中盤、後半、何か印象に残っていることや感じたことはありますか?
S: 4日目くらいになって、全く思い出せなかったのが、ぽろぽろとちょっとずつ引き出されるようなことが増えてきて、なんで忘れてしまっていたのだろうという事とかもあったりして、それが結構興味深かったんです。
5日目くらいに、父に対しての2回目の内観の時に、私が父親っ子だったので他界した過去を思い出してつらかったし、その頃にこんなことがあったといった出来事は覚えてるんですけど、家族に対してどのようなことを思っていたとかの家族に対する精神的な部分の記憶がごっそり抜けていることに気付いて、それはどれだけ思い返そうとしても全く出てこなくて、その話を所長にしたんですよね。
そうしたら本当につらかったりした出来事があった時って、記憶を思い出せないことがあるらしいです。こんなにも他の記憶は思い出せているのに、その部分だけ出てこないから逆に気になっちゃって、家に帰ったらアルバム見たりしようかなみたいな話を所長にしたら、そういう時の記憶は無理やりこじ開けない方がいいと言われました。自然に思い返せる分にはいいけれど、蓋をしてしまっている記憶は無理やり開けなくても大丈夫だよみたいな話をしていただき、こんな風に全部忘れちゃってることもあるんだなって、自分でもちょっと驚きました。
その後、夫と私の姉と最後は息子も内観して、それがひと通りでした。
もしかして私って甘えたかったのかな
全て委ねられる一週間がなんだかすごく優しさに包まれた
S: お食事が楽しみでした。前半はなかなか集中できなかったというのもあって、ごはんが楽しみで、たしかお昼は麺類が多かったんですよ。今日はうどんかなと想像していたら五目ラーメンだったり、あ、そう来たか!と、そんなところも楽しんでいました。
6日目くらいになった時に、普段は私も母親なので、朝晩食事を作って、洗濯や掃除の家事をして仕事に行ってとやっているんですが、内観中は1週間何もせずに、上げ膳据え膳で美味しいごはんを食べて、定期的に気にしていただき話を聞いてくれて、お風呂どうぞと声をかけてもらい、入浴後の片付けもしていただき、なんか……そういうのが本当に身に染みてものすごく泣けてきて、もしかして私って甘えたかったのかなと思ったんです。日頃は子供の面倒見なきゃとか、家事育児や主人の事も気にかけたり、父が他界してからはマンションの別部屋に住んでいる母のことを気にかけたり等もあって、こんなに私だけを集中して見てもらって全て委ねられるのがなんだかすごく優しさに包まれて、最後の方の内観はありがたくて涙が止まらなかったですね。
余談ですが、途中で結構地震がありました。でも携帯もTVも何もないし、大丈夫なのかなと心配したんですが、何も声がかからないのできっと大丈夫なんだろうなと思い、そういう不安もちょこちょこはさみながら最後まで進んでいました。
自然や周りの景色を見たり、そういうことが心の余裕になりました
T: 内観の後、ご自身の中で何か変わったことはありますか?
S: 初日着いた時は吹雪で、雪深くてと先ほど話しましたが、3日か4日目くらいから20℃超える日が続いて、いきなり暑くなったんですよね。前半は本当に無音で物音一つ聞こえなかったんですが、中盤から気温が上がった時に、雪解けのかすかな音が天井から聞こえてきたり、雪が解けて屋根からドサッと落ちる音とか、今まで聞いたことのない様々な音を聞き、最終日には完全にお庭の雪も溶け「ピ~ヒョロロ~」と鳥の鳴き声が聞こえて、まさに季節が移り変わるタイミングで、耳だけで冬から春を感じることができたのが貴重な経験でした。
普段は大地の声を聞くじゃないですけど、自然と向き合う時間って持ててなかったなと感じて、内観が終わってからも周りの景色を見る心の余裕を持つようになりました。外を見た時にちょっと振り返ってみたりとか、そんな事ができるようになった変化もありました。
子供の頃に母親の愛情がすごく大事ということが、よくわかりました
S: 内観をして、子供の頃に母親の愛情がすごく大事だという事が、自分の母親を内観で調べてみてとてもよくわかったんですよね。だから、息子の入学直前でここに来ることが出来て心から感謝しています。すぐに内観したからって私が何かすごく変わったかと言ったら正直1週間で自分の人生が変わる程というのは難しいです。
ですが例えば、私が子供の頃嫌だった母の行動があって、嫌だったはずなのに同じことを息子にしてしまうことがあったんです。それが自分でも嫌で仕方なかったんですけど、なんでそういうことを言ってしまったりしてしまうのか、なんとなくわかったけれど、でもそれってなかなか止められないんですよね。気をつけていてもそんなにすぐには変われない。だけどその場面になりそうな時に、ちょっと立ち止まれるようになったり、息子がそれをどう思うかと、気持ちを考えられるようになりましたね。振り返る事もできるようになりました。だからいいタイミングで集中内観研修に行けたなと思います。
本当の自分を知るために
T: ありがとうございます。そのように過ごされた集中内観研修において、社員研修であっても、なかなか7泊8日の集中内観は、気が重いと感じる人もいると思います。Sさんがご自身で集中内観に行きたいと思った、その理由は何だったのでしょうか?
S: 社内の人が内観に行って「すごく良かった。」と言う人もいれば、「もう行かない。」と言う人もいて、そういう気持ちも体験したからわかることだから、やってみたら私はどんな風に感じるのかなと思っていました。あとはやっぱり父が他界してから、ずっと母が一人で頑張ってくれたから今の私があるんです。常に親孝行しないといけないっていうのが前提であるのに、それが重荷になる時も度々あって、重荷に思う自分と感謝心をもつ自分と2つの私が心にいるというか、その心のしんどさが、内観に行ったら本当の自分を知ることができるのかなって漠然と考えていました。
T: その疑問は、内観に行かれてなにかヒントを得た感じはありましたか?
S: そうですね。それが完璧な答えなのかどうかは、今も答えを見つける最中です。でも今だからわかるあの頃の母の気持ちに気付けたし、誰が良くて誰が悪かったかではなくて、きっとあの頃の母はこうだったんだろうなとか、なんで自分はもっとやってあげなかったのかとか、俯瞰して見ることができるようになりました。
今まで気持ちはあってもなかなか行動に移せなかったり、その気持ちも本音なのか建前なのか、これだけやってもらっているから、こうしなければならないっていう考えの元でやってるのか、そうゆう部分にこだわっていたけれど、そうではなくモノの見方、考え方が完全に変わったっていう感じもありますね。
内観から帰ると、子供が貯金箱からお金を持ってきて・・・
T: お子さんは小学校入学前でしたが、集中内観研修の時はお父さんがお世話してくださったんでしょうか?
S: 基本的には、普段から主人が子育てに関して何でもできるタイプだという事と、息子が生まれた時にNHKで、男の子はお父さんと一緒に寝た方がいいみたいな内容の番組がやっていて、子供は母親といる時間は長いけれど、父親は母親に比べると少ないので、悩みを話したりする時間っていきなりは持てないけれど、毎日の寝かしつけの時間に色んな話をしたり、肌を寄せ合う、そういう時間があると信頼関係が築けるといった内容だったと思います。
番組を観て「それだ!」と思い、1歳ぐらいからずっと夫が息子と二人で寝ているんです。なので内観も「いいよ。行っておいで。」っていう風に送り出してもらえました。あとは、同じマンションの別部屋に私の母が住んでいるので、母の助けもあったし、名古屋に住む私の姉も少し仕事を休んで手伝いに来てくれて、息子が寂しくないようにみんなで盛り上げてくれました。
内観から帰って来た時に、すぐに感謝の気持ちとか伝えたかったんですけど、その前にみんなが「一週間こんな風に過ごしたよ!みんなで力を合わせて頑張ったよ!」って逆に聞いてくれみたいな感じで(笑)。みんなの時間も充実していたみたいで、すごく結束力が高まったと興奮していて「それは良かったね。」と聞き役に徹しました。普通の内観帰りの人とは違うかもしれないですが、それはそれで我が家らしくてすごく良かったです(笑)。
その後、息子と私でスーパーに行った時に、「お母ちゃん頑張ったから、グミ買ってあげるね。」と言って、普段息子は全然お金を使わないタイプなんですけど、貯金箱からお金を持ってきて私にグミを買ってくれて、それもとても嬉しかったです。
そんなこんなで、私が内観を通して悟った感謝の気持ちをみんなに伝えようとしたけれど、そういう場ではなかったです。(笑)
【女性社員Sさんのインタビュー、前半を終えて】
集中内観では、3日目の壁とよく言われます。日々目まぐるしい日常生活から、携帯、テレビ、パソコン、電話、SNSなどからいっさい離れ、静かな環境の中で部屋にポツンと一人。過去の記憶をたどろうとしても、暗中模索でなかなか思い出せません。日常生活の延長線上で、内観の環境に心身共に慣れるまで、個人差はありますが3日間ほどかかると言われています。
4日目から内観の方法もなんとなく掴みはじめ、過去の記憶もところどころ紐解けてくるようです。
同僚の方に背中を押してもらったり、母親であるSさんは、ご家族も協力的で、安心して集中内観に行かれたそうです。
子供の頃は母親の愛情がとても大切だという事を内観で実感され、お子さまがまだ小さいので、今行けて本当に良かったと喜んでおられました。
集中内観の最後には、食事からお風呂、話を聞いてもらうなど、すべてを委ねられることのありがたさがこみあげてこられて、お話をお聞きしているこちらまであたたかい気持ちが伝わってきました。
次回はインタビュー後半です。
集中内観の前と後の変化や、日常内観や日ごろの振り返り方などのお話をしていただきました。