北陸内観研修所

内観小説

[その10]  寂しかった過去【恋人と長く付き合い、ゴールしよう!うまくいかない恋愛】

その10:寂しかった過去

2日目の夜、なつきは寂しくってなりません。

私は、ひとり。誰も私を分かろうとしてくれなかった。辛いとき、悲しいとき、私を慰めてくれなかった。家庭は温かみが感じられず、嫌なことの方が多かった。しかし少なくともお母さんやお父さんは、私を養育してくれた。養育してくれた出来事は想い出せた。でも、それは親の義務でしょう……。田舎の両親の元に帰りたい。内観をするのを止めて、帰ろうかしら。他の内観している研修生のように、私は思い出せない。

そう思うと、なつきは内観していることが居たたまれません。ふっと、あさみの顔が脳裏を横切りました。そうだ!私のことを心配してくれるあさみに、内観を途中でほっぽり出して帰ってきたなんて話せない。そうだ!彼に、プロポーズの返事をしなくてはならなかったんだ!里心がついたからといって、おめおめと帰られない。ここで帰ったら、また、あの苦しい日々が続く……。

でも、今、ここで、ものすごく苦しい。寂しい。私を受け容れてくれる人の元へ、飛んで行き、抱きしめてもらいたい!

なつきは、心の中で葛藤を続けました。そこへ、内観の面接者が入室してきました。なつきは、これまでの思いを吐き出します。

内観していても、思い出せない!だいたい家族から、優しい言葉掛けなんてしてもらった事なんてないし……父親なんて、ほとんど家にいないし、居るときはうるさく言うだけ……。母親なんて、私の話を聞こうともしなかった。

と父親の悪口、母親の愛情のなさを怒りとともに吐き出しました。これまで、良い子で通してきたなつきは、親に対してネガティブな感情を持っていなかったと思っていたため、自身の言葉に驚きながらも、言葉は止まりませんでした。

10分間程、話したでしょうか。黙って聞いていた面接者は、「内観は、世話になったこと、して返したこと、迷惑をかけたこと、この3項目の事実を調べます。この3項目は、答えられますか?」

なつきは「ありました」と小声で返答しました。「どのような事でしたか?」「塾に通わせてもらいました」とだけ、返答しました。すると面接者は「自分に欠点があるのに、親の欠点のみを取りあげるのはフェアーではないと思いますが、どう思いますか?」「そう思います。でも、今は親に腹が立って仕方がありません」

「このような考え方もあります。内観の過程には、相手に対して怒りが表出されることもあります。子どもの時は、親に怒りがあるとうまく言えないことがあるからです。まず『怒り』という感情が、親に対してあったと認め、3つ目の質問の回答である『迷惑をかけたこと』で怒りの出来事を話したらどうですか?たぶん話している中で、『自身を見つめていく』と思いますよ」

沈黙ののち面接者は静かに尋ねました。「内観を続けますか?」なつきは、続けますとしか返答のしようがありませんでした。

 

つづく

その11 養育費を稼いでくれた父親

もくじ
恋人と長く付き合い、ゴールしよう!~うまくいかない恋愛~
なつきの恋愛ベタ克服ストーリー

はじめに はじめに
その1 私の付き合う男って皆ダメなやつ
その2 ネガティブな思考パターン?
その3 人を愛せない
その4 プロポーズの返答
その5 お母さんせいで結婚できないという怒り
その6 思い出せない母親の記憶
その7 良い子でいようとした子ども時代
その8 拠り所になる人の励まし
その9 思い出さない過去
その10 寂しかった過去
その11 養育費を稼いでくれた父親
その12 素直な感謝
その13 母親への憎しみ
その14 慈愛が受容される
その15 彼の愛を受け入れる
その16 繰り返しダメな彼とつきあう訳
その17 自身を成長させてくれた元彼
その18 彼といると自然体でいられる自分
おわりに 生きづらさからの解放

番外
1 母親との関係がいい人は誰とでも円満につきあえる
2 なぜ感情をコントロールできないの?
3 辛いときに母を恋しく思うのは本能
4 パートナーの心が離れていく訳

 

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